一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
「私ね。『習い事、多賀見のお祖母様がさせたいならしてあげようかな』って感覚だったの」

 ひかるちゃんの言葉に「知ってた」と返す。

「好きでも嫌いでもなかった」
「……ウン」

 風が吹くまま流れされているように見えて、それを楽しんでいる彼女が羨ましかった。
 
「でね。私が語学苦手なの、玲奈ちゃんも知ってるよね」
「知ってる」
 
 茶道や書道は一緒に習ったけど、多賀見の子女必須の語学を、ひかるちゃんは嫌いみたいだった。 
 彼女が、英会話教室に行ってもつまらなそうだったのを覚えている。

「事務所入ったとき『私は日本庭園の庭師だから、外国語なんて関係ない!』って豪語してた。お父さんに『どんな職種であれ、これからはグローバル化してくる。日本の中で小さくまとまるな、取り残されるぞ』って何度も言われたけど、無視してね」

 そのうち行き詰まって、手当たり次第に解決策を求めたという。

「外国語で書かれている禅やガーデニングの本読んでもね、書いてることわからないの。後悔したわ。機会を与えてもらったのに、なぜ学ばなかったんだろうって」

「それでっ」

 食いつくように先を促した。

「ふっと思ったの。『野点にはどんな風景が似合うかなぁ』とか、『琴の音が映えるような木の配置ってどんなだろう』とか、考えてる自分に気づいたの」

「エ?」

 体の中のナニカが急速に冷めていくのを感じる。

「短大ではビジネスに必要な基礎を学んだの。CADは庭の設計図作るときに便利。パソコンや簿記の基礎はプレゼンやコスト管理に使えることに気がついたの」

「…………ナニ、ソレ」

 凪ぎはじめていた心が一瞬にして猛り狂った。

「だからね、『無駄ってないんだな』ってこと。過去に学んだこと、今の仕事に活かせてる」

 従姉の、あまりにも優等生な答えに私は我慢出来なくなった。
 
「ひかるちゃんは庭師になったから、そんなこと言えるんだよっ。たまたま、習い事が今の仕事にマッチしてただけじゃない!」

 音楽を学んで活かせる仕事なんて、音楽以外にない!
< 61 / 224 >

この作品をシェア

pagetop