一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
「玲奈ちゃんは、誰の犠牲の上に自分の人生が成り立ってるのか考えたことある? 貴女が入学したから、もしかしたらプロになる人が入れなかったんだよ」

 彼女の声が厳しくなった。
 ひく、と息が止まる。 

「辞めるのは自由だけど。一生懸命学ぶことと、学んだことをなにかに活かせないかって考えることは出来るでしょ」

 そんなことすら、指摘してもらうまで気づいてなかった。

「……出来るかな……」

 自分でも声が弱々しいのがわかる。
 モノにならないとわかっていて努力するのは。
 保証のない未来の為に努力するのは……、怖い。

「出来るかじゃないの。しないのは、玲奈ちゃんの怠慢。学資を出してくれた叔父様や応援してくれたお祖母様に、貴女が師事している教授や合奏のメンバー。周りの人に失礼でしょう?」

「……ごめんなさい」
「私に謝ることじゃないよね?」
「ハイ」

 普段、ニコニコしてるけど、ひかるちゃんは怒らすと怖いのだ。
 私がしゅんとしてしまったのがわかったのだろう、彼女は柔らかい声になった。

「なにがしたいのかわからないなら、辞めるまで勉強することと音楽を楽しみなよ」
「いいのかな」

 いいよ、とひかるちゃんは言ってくれる。
 
「これがね、多賀見が困窮してたら学校続けるのは大変だけど。幸い、そうじゃないし」

 っ、そうだ!
 倒産したら、私は退学せざるをえないかもしれない。

「……無理矢理、辞めなくちゃいけなくなったら『どうして、あんなに音楽に携われた時間をもっと楽しまなかったんだろう』って後悔するかも……」

 つぶやいたら、正解とひかるちゃんの返事だった。

「私は短大行って良かった。多賀見もウチも関係ないとこに行けて、外から見たら庭師になろう!って思えたから」

 実の父に頭を下げて造園事務所に入った従姉の言葉は誰に言われるより、心に届いた。
 
 
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