一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
 それからの私は、思いつくまま幼稚園への演奏や病院へのボランティアに行ってみた。

 ……理論より感性で音を楽しむ人達は、ある意味教授より手強かった。
 ちょっとでも技巧的になると、途端に興味をなくして騒ぎはじめる。
 アニメ曲や昔の歌謡曲。
 いくら楽譜がないと言ってもリクエストされまくる。
 仕方なく耳コピで演奏すれば『そんな曲じゃない』と言われてしまう。

「もーっ。お爺ちゃんお婆ちゃん達、ほんとワガママっ!」

 私が憤慨するたびに電話の向こうで、ひかるちゃんが笑っていた。

「楽しそうだねー。玲奈ちゃんが動画や楽譜をネットで探してる姿が見えるよー」

 バレた。

 はじめのうち。
 今までピアノにへばりつき取り憑かれてたみたいな私が、練習時間を減らしてレッスンと関係のないことをしだしたのを、同級生や後輩は奇異な目で見ていた。

 そのうち。
 私がよほど楽しそうだったせいか、音楽キャラバンへの参加希望が増えた。
 ……理由を聞いたら『キャラバンを始めた多賀見の音が変わったから』

 合間、ひかるちゃんと『琴とヴァイオリンの夕べ』を実家の庭で催したら、家族に大ウケ。
 お祖母様達も楽器を持ち出して参加し、しまいには叔父様まで朗々とした美声を披露した。

 卒業寸前。
 ついに、園児達や老人ホームの人達から踊りや合唱を引き出したときには、おもいっきりガッツポーズをしてしまった。
 ひかるちゃんの言う通り、私も楽しかった。

『多賀見、実はいい奴だったんだな』
『進路について悩んでたけど、キャラバンがいいきっかけになった。玲奈、ありがとね』

『おにいちゃーん、おねえちゃーん、またきてねーっ』

『多賀見さん達が来てくれると、患者さん楽しかったみたいで、寝つきがいいの。よく食べてくれるしね』

 仲間や園児達、看護師さんらに言って貰えた言葉は、私の宝物になった。
 自分が誰かを笑顔に出来ることは自信となり、私を支えてくれている。
< 63 / 224 >

この作品をシェア

pagetop