一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
 ネイトがドアにたどり着くまで、しばし間があった。

 寝室、応接間にウォークインクローゼットにパウダールーム。
 さらには訪問客を泊める部屋まである。廊下玄関と続いて、ようやくエントランスなのだ。

「ミスター・クロフォード、ご依頼の品をお持ちいたしました。早速業務を開始してもよろしいですか?」

 この声。
 聞いた途端、体が強張る。
 ネイトの指輪を持って帰ったあの日、私に声をかけてきた男性だ。
 ……確かスイートルーム以上の部屋には、専用コンシェルジュサービスがあったっけ。
 内容は、日本語の出来ないクライアント向けの短期間秘書代行。
 彼はネイトの専属なんだわ。

 ……なんとなく、あの人と一緒に仕事したくない。

「すまない、今回はサービスを利用しない。秘書を連れてきてるんだ」

 ホッとした。
 なぜか息をひそめて、二人の会話を聞いてしまう。  
「先日のことがご不快だったのでございますか。ですが、わたくしのミスではありません」

 悲劇的でネイトを非難しているかのような口調。
 どんどん、嫌いになる。

「過ぎたことだ」
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