一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
 空気を修復すべく、別のスタッフがスツールを運んできた。
 大きな姿見も据えられ、靴が箱から何足も取り出された。
 箱にはブランド名がない。

「ネ、ミスター……」
「僕は歩く。秘書も同様だ。彼女に、きちんと合った靴を選んでやってくれ」

 座って履いて、立たされて部屋を歩かされる。
 シューフィッターが中敷を調整してくれると履き慣れた靴のように馴染んだ。

「すごい!」

 思わず彼を見てしまったら、満足げな笑みを浮かべされた。

「さすが、奴の靴だ」

 …… ひょっとして、出ていった男性のブランドかな。

 まあ、いいか。
 ネイトが機嫌がいいと、嬉しい。 
 雰囲気が良くなったのでほっとする。

 いつかは買いたいと思っていたブランドたち。
 今日の出会いに感謝して、肚を決めて支払おう。
 財布からクレジットカードを取り出そうとしたら、指で止められた。

「あ、の?」

 もう済んだんじゃ……。

「次はこれだ」
 
 もう一着?

「結構です、そんなに買えませんっ」
 
 ワンセット分でカードの限度額超えちゃう!

「ボーナスと言ったろう、呑み込みの悪い秘書だな」
「ですが!」

「服も下着も靴もサイズはわかるが、実際に着てみないとわからないだろう」
「……どうしてわかるのよ」

 うっかりこぼしてしまったら、悪い笑みを唇の端に浮かべた。

「僕がわからないとでも?」

 愚問でした。
 でも。
 わかるんだ。
 ふーん。
 どれくらい場数踏んでるのよ!

「常識の範囲だ」

 なにが?
 付き合った女性の数?
 スタッフに次の服を試着するよう促されるまで、モヤモヤしてしまった。
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