癒しの君と炎の王~炎の王は癒しの娘を溺愛中~
「おじいちゃん、山ぶどう取ってくるね。」

「ああ。ソフィア、川岸には近づかないようにな。」

「分かってるって!」

私はそう言いながら空の籠を肘にかけ、フードを目深に被った。

「行ってきまーす!」

勢いよくドアを開ける。

「おっと!ソフィア危ない!」

開けたはずのドアが途中で強い力で押さえられた。
あと数センチで木のドアがニックの頭にヒットするところだった。そこに立っていたのは筋肉隆々の幼なじみのニックだった。

「ニックごめんごめん!」

「俺だからよかったけど、他の人なら怪我してたぜ。」

「はいはい。怪我してもおじいちゃんが治すから大丈夫よ。」

私は軽くあしらうと、レンガ造りで藁葺き屋根の診療所兼住居の家を後にし、小走りに森に向かった。
ニックの筋肉自慢が始まる前に、早くこの場を立ち去った方が賢明だと思ったからだ。
最近は出掛けると言うと、「俺がお前を守る!」と言ってニックが付いてくることもあり、付いて来ないよう、私は逃げるように森に入った。

「ハァ~、疲れた。」

私は立ち止まり、後ろを振り返って、ニックがいないかを確認する。

よかった。来てない。
ニックのせいで無駄に走ってしまい、喉がカラカラだ。
おじいちゃんに川岸に行かないように言われてたけど、ちょっとくらいいいよね。

私は川に水を飲みに向かった。

この国は4つある、火、水、土、風のうちの1つの火の国。この火の国は水の国と風の国と隣り合わせだ。4つの国は100年前までは戦争をしていたが、100年前のある出来事がきっかけで、平和協定を結び、今は戦争のない平和な世界となった。おまけにこの火の国には、4国最強と云われる過去類をみない強大な魔力を持ったロズウェル王が若くして即位したこともあり、火の国に喧嘩を売るような国はなくなった。だが、時々、各々の国の国境警備隊達が小競り合いを起こす。この川はちょうど風の国との国境にあたるので、おじいちゃんは川岸に行かないように言っていたのだ。

川に着き、両手で水をそっとすくい上げ、飲んだ。

「はぁ、生き返る!ほら、やっぱり大丈夫。」

この川の向こうは風の国かぁ…。
国境と言ってもこんなに広くて長い川なんだから、そんなに心配しなくても大丈夫なのに…。

ガサッ

低い木の茂みから音が。

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