【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
普段は俺と言うのか。
今まで聞いた何よりも、特別な言葉のように聞こえる。専務はふわふわしたつかみどころのない大人に見えて、全然そんなものではない。いつも隙がない完璧な姿で笑っている。
「やましい気持ちは、ない、つもりです」
そこまで言われてしまえば、断る理由を失ってうなずいた。
「はい、わかります。……セクハラだと感じたことは、一度もありません」
「ああ、よかった。有能な秘書に去られてしまうところでした。じゃあ、準備ができたら一階に来てくれますか?」
「はい、ありがとうございます」
頭を下げて更衣室で荷物を整理した。専務は帰宅の準備に時間はかからないだろうから、急いで身支度を整えて、一階まで下りる。
人影がほとんどないロビーで、ぽつりと長身の男性が立ち尽くしていた。
――そういえば、急いでいたんじゃなかっただろうか。
思いついて近づいてみれば、電話をかけているらしいことに気づいた。
「はい、はい。いや、そういうわけじゃないんですが……。それは、本当に申し訳がないです。はい、ええ」
何かをもめているような感触だ。冷静に返している橘専務とは裏腹に、誰かが大声で話しかけてきているようだ。
今まで聞いた何よりも、特別な言葉のように聞こえる。専務はふわふわしたつかみどころのない大人に見えて、全然そんなものではない。いつも隙がない完璧な姿で笑っている。
「やましい気持ちは、ない、つもりです」
そこまで言われてしまえば、断る理由を失ってうなずいた。
「はい、わかります。……セクハラだと感じたことは、一度もありません」
「ああ、よかった。有能な秘書に去られてしまうところでした。じゃあ、準備ができたら一階に来てくれますか?」
「はい、ありがとうございます」
頭を下げて更衣室で荷物を整理した。専務は帰宅の準備に時間はかからないだろうから、急いで身支度を整えて、一階まで下りる。
人影がほとんどないロビーで、ぽつりと長身の男性が立ち尽くしていた。
――そういえば、急いでいたんじゃなかっただろうか。
思いついて近づいてみれば、電話をかけているらしいことに気づいた。
「はい、はい。いや、そういうわけじゃないんですが……。それは、本当に申し訳がないです。はい、ええ」
何かをもめているような感触だ。冷静に返している橘専務とは裏腹に、誰かが大声で話しかけてきているようだ。