【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
ためらいなく開かれたドアの先で、渡総務部長がこちらを見つめている。すこし目を見開いて、すぐに険のある表情に戻ってしまった。
手元には、何かの鍵が握られていた。
時刻はすこし前にお昼に入ったところだ。この時間に専務の役員室に用事のある人はいない。もちろん、渡総務部長を含めてだ。
私が着任して以来、渡総務部長が橘専務への用事でここを訪れてきたことは一度もない。青木先輩あてにもない。つまり、彼がここに来る理由は、いつも私一人だ。
さすがに自分でも、彼になんらかの不快な感情を植え付けてしまっていることはわかる。だからこそ、苦手意識を持っているのかもしれない。
「渡総務部長、いかがなさいましたか? 橘専務は今外出中ですが……」
「きみ、今朝頼んでいた件はどうなっている?」
扉の先から、お昼の喧騒が聞こえている。
すぐ近くの部屋にいた秘書の皆さんも、役員の皆さんも、お昼の休憩に出ていっているのだろう。
お昼の役員室は鍵をかけられていることが多い。つまり、出払ってしまえば、ほとんど無人の空間になってしまう。
どうにかして、渡部長と二人きりになることを避けようと思ってしまっている自分に気づいた。よっぽど彼のことが苦手らしい。
入社当初からよく声をかけられていた。
どちらかと言えば注意を受けることが多かった。のろまだから仕方がないと必死になっていたけれど、はやり二人になりたい相手ではない。
「はい、おそらく3時頃までには終わるかと思うのですが……」
「そうか」