【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
今日中であればよいと言われていたくせに、すこしおそるおそる声を出してしまった。
渡部長からするとまったく表情が動いていないように見えているのかもしれないけれど、内心は冷や汗をかきっぱなしだ。
何事もなくお昼を迎えたい。そのまま穏やかに定時までを乗り越えたい。
願いはむなしい。
「じゃあ、こっちも頼まれてくれるな?」
有無を言わせない力に差し出されるファイルを受け取って、あまりの古さに吃驚してしまった。今どきの資料はほとんどペーパーレスを徹底されている。
「これは……?」
「40年前の資料だ。社長が当社の設立100周年を祝したリーフレットの作成を考えていらっしゃる。本日中に第一倉庫に入っている同様の書類を見つけ出して作成してくれ」
「今日中ですか?」
「できないのか?」
第一倉庫はほとんど人も寄り付かないところだ。
何年前のモノかもわからないような忘年会の衣装が置かれていたり、創業当初からのアルバムが敷き詰められていたりするような、雑多な物置として知られている。
私もそうそう立ち寄る機会のないところだ。
役員に関する業務は秘書課の管轄になっているし、社長付きの秘書が同行業務でほぼ実務作業ができないことも知っている。
それにしても、あまりにも唐突な依頼だ。
「今日中は……」
「できないのか」