【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】


しばらく立ち尽くして、結局一度デスクに戻って財布を鞄に入れなおした。

約束していた相手に“今日、だめになっちゃった。ごめんね”と送れば、すぐに携帯に着信が入る。


相手はもちろん金曜日のランチ相手である、私の幼馴染——峯田(みねた)壮亮(そうすけ)だ。


「はい」

『だめになったって、なんだ?』

「そうくん? なんか、お仕事終わらなくて、ごめんね」

『ああ? 昼食えねえの?』

「うん、ちょっと、倉庫の片づけ? みたいな」

『わざわざ昼に?』

「……うん、渡部長が、一緒に手伝うって言ってくださって」

『はあ?』


相変わらず口の悪い男の子だ。

嫌悪感を隠しもしない壮亮が、何度か渡部長を「いけすかねえ」と言っていたのを覚えている。たぶん、私があまりにも注意を受けるから、心配してくれていたのだろう。


「はやく行かないとまずいから、もう切るね。今度の時、お菓子おごるから」

『おい、』


壮亮が何かを言いかけていたけれど、さすがに時間がない。

携帯も鞄の中にしまい込んで、ようやく秘書室から飛び出した。エレベーターに入って1階を選択すれば、他のどの階にもとまらずに1階へとたどり着く。

エントランスへ出ていく人の波を見ながら、反対方面に足を進めて、人影のないほうへと突き進んでいった。

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