【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
左右を探っていた手が誰かに掴まれた感触があった。思わず声をあげて倒れかけたら、つよい力で抱き起される。
遼雅さん、じゃない。
ただそれだけが頭にある。喫驚して喉が悲鳴を上げた。
「ひっ……」
ほとんど視界が良くない中で、誰なのかもわからない人に抱きしめられている。ぞっとして手を突っぱねようとしたら、よく通る男声が耳に響いた。
「おい、落ち着け!?」
すこし焦ったような声だ。
じたばたと動きかけている背中を等間隔で叩かれて、ようやく縺れかけていた呼吸が落ち着いてくる。聞いたことのある声だ。
ずっと前から、よく知っている声。
「そう、くん?」
「そうだよ、あほ! 何ビビってんだ!?」
「う、わ、ごめん。び、びっくりして」
「いや、俺も悪かったけどなあ、そんなにこえーなら呼べよ!?」
ついさっき電話で聞いた声に安堵して、力が抜けてしまった。
壮亮はわかっていたみたいにもう一度抱き起してくれて、「あほ、のろま」といつものように罵声を浴びせてくる。その罵声ですこし落ち着いてしまうから、今の精神状態はかなり異常だ。
「び、っくりしたの……、もしかして」
——渡部長かと思った。
脳裏に浮かんだ言葉を飲み込んでいた。
あまりにも失礼な考えだ。口を噤んでいる間に、横のあたりから、パチパチと音が聞こえてくる。
「あ? 電気つかねーけど」
「え、ええ? それはこまる……」