【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
おさとうななさじ
すこしだけ残務を整理するからと言われて、結局私がさきに、定時に上がることになった。
せっかくの金曜日だ。土日の分も含めて買い物をしようとスーパーに入ったところで、ポケットに押し込んでいた携帯が鳴ってしまう。
一度遼雅さんからの連絡を見落としたところから、なるべく肌身離さずに持つことを心がけている。
画面には、想像していた通りの人の名前が浮かんでいた。特にためらわずに耳にあてれば、すこし前まで聞いていた声が耳殻に触れる。
『柚葉さん?』
「はい、どうしましたか?」
『今、どこですか?』
「あ、今スーパーにお買い物に」
『あ、そうですか。おどろいた。帰ってきたら、きみが居ないから』
「ええ? もう着いたんですか?」
遼雅さんの言うすこしだけは、本当にすこしだけだったらしい。一時間はかかるだろうと思い込んでしまっていた。
『迎えに行きますよ。前に行ったところですか』
「あ、はい。でも大丈夫ですよ? ゆっくりお休みしてても……」
『行きます。荷物持ちくらいには、なりますよ』
「ふふ」
会社の専務から、「荷物持ちくらいには」と言われる日が来るとは思わなかった。
野菜をかごに入れながら笑っていれば「信じてない?」と電話口の人も、笑ってくれているようだ。