【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】

あ、と口を開けて、ぱくりと食べてしまった人が、私の手を持ったまま「あまい」と囁いていた。

あまいのは、どちらだろうか。

たぶらかされるような気分で、気をそらしながら「おいしいですか」と尋ねていた。

遼雅さんのあまい声に、顔があげられなくなる。俯いていたら、耳のすぐ近くで声が鳴った。


「うん、うまい」

「んっ……耳、近く、で」

「柚葉」


近くで喋らないでほしい。

遼雅さんの声に弱い。

お腹の奥がしびれて、おかしくなる。抗議したいくせに何一つ言えなくなってしまった。

ただ見つめて、もう一度遼雅さんに囁き落とされる。


「柚葉、こっち向いて」


遼雅さんの魔力で、勝手に顔が持ち上がってしまう。相変わらず私の手を握ったままの綺麗な顔立ちの男性が、あつくてとろけてしまいそうな瞳で、私のことを見つめていた。


「りょう、」

「うまいけど、たぶん、柚葉のほうがおいしい」

「な、っ……ん、」


掴まれていた指先がほどけた。

熱が失われていくのを感じる暇もなく、後頭部に熱い指先が触れる。

すこしも、考えさせてくれない。

間髪入れずに唇に熱が押し込まれた。どういうバランスでケーキを持ちながら、こんなに遠慮のないキスを仕掛けられるのだろう。
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