【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
あの迫力は本当にびっくりした。心臓が止まりかけたし、泣きそうになってしまったくらいだ。

見たところ、橘専務には特に怪我もなさそうだ。

たぶん、私が一度殴られて気を失ってしまったために、病院に連れてきてくれたのだろう。

かすかに薬品の匂いがする。


「……さとうさん、体の調子は」

「問題ないです。もしかしたら鼓膜が破れてしまったかもしれませんが、それ以外は」

「それはだめじゃないか! ああ、申し訳が立たぬ。わしの見立てが悪かったのか。佐藤さんにはどう詫びればよいか」

「いえ……、そんなにお気になさらずとも」

「女性の体に傷をつけるなど言語道断だ。橘くん、そう思わないか」

「そうですね。……佐藤さん、他に痛むところは?」

「いえ、本当に大丈夫です」

「いいや。だめだよ。……佐藤さんはすぐ無理をするから、ちゃんと言ってほしい」

「そんな」

「頬はどうかな。まだ腫れているようだ」

「いえ、あの」

「せっかく白いのに、痕が残ったら大変だ」

「あの」

「急に動いちゃいけない」

「たちばなせ、」

「手が冷たい。……怖い思いをさせてしまったよね。もう大丈夫だよ」


真剣な瞳がこちらを見つめている。ゆっくりと、暖めるように両手を握られた。心臓が止まりかけて、必死で呼吸をしている。

いつの間に、橘専務の敬語が取れてしまっている。動揺しているのだろうか。


「よかった。すこし暖かくなったね」

「あの、」

「頬をよく見せて」


自然と頬に手を寄せて、検品するように見つめられた。その目に弱い。匂いもかなり好きだ。
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