【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
「いやあ、橘くんも結婚かあ。ちゃんと奥さんにはサービスしてやるんだぞ」
「はは、そうですね。肝に銘じます」
「すこし夜の付き合いに行っているだけで叱られたりするもんだからなあ」
「安西社長は奥様に愛されているんですよ」
「ん~、まあどうだか」
満更でもなさそうな白髪の男性に無言でコートを着せて、一つ礼を打つ。目が合ったら「ありがとう」と微笑まれた。お茶目な瞳の人だけれど、かなり大口の取引先だ。
「橘くんこそ、そんなに色男なら、奥さんが黙っていなさそうだ。うん?」
橘専務が結婚について、からかわれている姿を見る機会はあまりないから、内心狼狽えてしまった。
専務の横に立ちながら、企むように笑う男性の目がもう一度私のほうへ向いてくるのを感じた。
何か問われてしまいそうだ。思った通り、気の良さそうな声が問いかけてくる。
「きみもそう思わんか? 橘くんほどの男なら、おちおち家庭で安心していられないだろう?」
「安西社長、勘弁してください」
答えを悩んだ一瞬で、橘専務が困ったような声をあげて制止してしまった。安西と呼ばれた人は、気分を害した様子もなく、けろりと笑って肩を竦めて見せた。
「私のつまは、あまり嫉妬したりしませんよ」
「ほう? そうなのか。おどろいた。よほどの美人か?」
普段、私生活について話すことのない専務が、あっさりと声にあげてしまった。
私に安西社長の目がいかないように話し始めてくれたのだろうか。それにしても、専務の言葉にすこし驚いてしまった。