【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
いつものあの絶妙な距離感はどこへ行ってしまったのだろうか。


「瞳が、震えてる。佐藤さん、守れなくてごめんね。次があったら、どんなものからも守るから」


動揺して目をそらせば、優しい声が耳に届いてくる。


「俺はどう責任をとったらいいかな。取らせてほしい、何でもするよ」


跪いた人がまっすぐにこちらを見つめていた。

まるで愛の告白のようなシーンに目が眩んで、起こしているからだがふらりと倒れかけた。

このまま気絶したい気分のくせに、橘専務のあたたかい胸に抱き留められたら、ぱちりと瞼が持ち上がってしまった。


「さとうさん。無理しちゃダメだよ」


後ろから見つめている人には、もしかすると、突然抱擁しはじめた男女に見えているかもしれない。

仕事モードが外れてしまっている橘専務は、こうも甘ったるいのだろうか。おそろしい甘さに指先がしびれる。

そうか、あの女性もこうして誑し込まれてしまったのか。

どこかで危険信号が流れているのに、抜け出すこともできずに抱き寄せられている。


「……きみたち」


後ろから会長の声が聞こえて、さすがに目が覚めた。どう考えても、上司と部下の距離ではない。

嫌な予感がする。

会長は、一度こうだと思い込んでしまうと、まったく意見が聴こえなくなるタイプのすこし困ったお爺さんだ。可愛らしいところだと思っていた。


今の今までは。
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