【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
「……パ、パワハラだ! 痛い!」
「そうですか。それなら正式に訴えを起こしてください」
尻もちをついたまま、狂ったような声をあげている。渡部長の声に、あくまでも冷静な遼雅さんが、色のない声でしゃべり続けている。
遼雅さんが、私から渡部長を引き離してくれたのだろう。
暴力をふるったり、人を蔑んだりするような人には見えない。きっと、そうする機会も少なかったはずだ。それなのに、何の動揺もなく、遼雅さんは至って冷静に私の前に立っていた。
「なんだと……!?」
「再三の忠告の上、あなたは自身で署名した念書の規則に3点違反しました。そのうえで訴えを起こすんですよね」
「……あれは、間違いだ。俺はその女を教育してやってるだけだ」
「言い訳は結構。今すぐ退勤してください。処分は追って伝えます。――忠告通り、適正に処理いたしますから、そのおつもりで」
淡々と続く言葉で、渡部長の声のトーンに焦りが浮かんでくる。
念書も、厳重注意も、何もかも知らされていなかった。私のいないところで、遼雅さんがたくさん動いてくれていた証拠だ。
緊迫したシーンのくせに、おかしなくらい安心している。
遼雅さんが来てくれた。遼雅さんがいる。
ただそれだけで、震えがすこしおさまった気がした。