【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
あたたかい背中が見えている。

大丈夫だと言われている気がして、呼吸が落ち着いてきた。


「専務、もう、大丈夫です……、あの」


小さく囁いて、遼雅さんの肩がすこしだけ揺れたのが見えた。

こんなにも小さな声で、気づいてくれる。

心強い救世主に泣きたくなって、尻もちをついたままの人に視線を向けた。

もう関わらないでください、と言おうと口を開きかけて、妙に高ぶった声色が鼓膜にへばりついた。


「橘君は知らないかもしれないがな、佐藤——柚葉は俺の……」

「――俺のつまの名前を、気安く呼ばないでいただきたい」


冷え切った音で、背筋が凍り付いた。

聞いたことのない温度だ。まるで、すべてを凍り付かせてしまうようなもの。

ただしく怒りだと気づいたのは、目のまえで倒れ込んでいた渡部長が、顔色をなくして言葉を失ったところを見てしまったからだ。

どんなに冷たい顔をしているのだろう。


「な、にを……」

「彼女は俺の配偶者です。言いがかりをつけるのなら、法的手段も厭わない。つまを侮辱するのはやめてくれ」

「は、あ? どういう」

「まだわからないか? きみは部外者なんだ。教育も、何もかも必要ない。失せろ。気分が悪い」


威圧的な口調で、とうとう男が黙り込んでしまった。その一瞬で遼雅さんが振り返る。
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