【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
ひどく剥がれてはいないのだろうけれど、まるで忘れないでほしいと言わんばかりの視線に頬があつくなる。


『行ってらっしゃい。待ってますね』

『は、い』


出てくるまでの時間はほんの5分だったのに、遼雅さんのねつが唇に燃え広がったまま、滞留して消えてくれない。


「柚」

「うん?」

「くち」

「えっ!? なんでわかるの?」

「はあ? 全然食べてねえくらい見てりゃわかるだろ? あほか?」

「あ、え? 何の話?」

「いや、だから飯全然進んでねえけどって言ってんだろ」


とんだ勘違いだ。

離れていても遼雅さんのことばかりを考えてしまっている。苦笑して、大きなひと掬いを口の中へと運んだ。


「――あれ、あの女の子、専務の……」


遠くから聞こえてくる声に、肩がぴくりと上ずってしまった。思った以上に気づかれてしまっているらしい。

遼雅さんは開き直ってしまったのか、家を出るたびに私が結婚指輪を外すのを見て、すこし拗ねたような表情を作るようになってしまった。

正直に公表してしまったら、遼雅さんは次のお嫁さんを探せなくなってしまうだろうし、私としては、遼雅さんの近くで働けなくなってしまうのが、すごく、嫌だ。

だから知らんぷりをして置いていくのに、最近は、「外すの?」と聞かれるようになってしまった。
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