【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
13時までは、まだすこし時間がある。
ゆっくりと息を整えて、ポーチの中身を鞄にしまい込んでから、静かに化粧室を出た。
相変わらず閑散とした印象の廊下を抜けて、首から下げていたセキュリティカードを入り口にかざした。かちゃりと開錠した音が鳴って、ゆっくりとドアノブに力を入れる。
渡部長の事件があったからか、二日後には大々的に施工会社が入って、各部屋の扉が交換されることになった。
例にもれず専務付きの秘書室にも適応されて、普段部屋に入ることができるのは役員の皆さんと秘書課の社員だけになっている。
重要なものだから、つねに首にかけるようにしているけれど、失くしたら一大事だ。
室内は小一時間前にあったまま、静まり返っていた。遼雅さんはたぶん、役員室でまた仕事をしているのだろう。
静かに入室して、鞄を机の中にしまう。
紅茶でも淹れてこようかと思い立って、動き出しかけていた足をすぐに止めた。
たぶん、帰りが遅いことのほうが心配をかけてしまう気がする。何も持っていないけれど、とりあえず顔を出そうと決めて、役員室に足を向けた。
ノックは三回。
軽く鳴らせば、私が声をあげる前に「入って」と促されてしまった。