【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
「あ、間違え……」
前にも間違えたけれど、遼雅さんはコート掛けも自分でやってしまう人だ。
思い出して引っ込めようとした両手に、いつかの日と同じように遼雅さんの掌が乗せられて、きゅっと握りしめられた。
「柚葉」
「うん?」
「ただいま」
きゅっと目を眇められて、思わず声に詰まってしまった。
まるで何年も会えなかった恋人に出会えた人みたいだ。首を傾げたら、何も言わずに遼雅さんの両腕が背中に回って、ぴったりと境界線を消すように抱きしめられる。
「ん、遼雅さん?」
「……おふろ、はいってたの?」
「あ、はい。そうなんです。ご飯も作り終わってしまったので」
「そう……、だったんだ」
「……遼雅さん?」
呼びかけても言葉で返してくれなくて、ただ、つよく抱きしめられてしまう。おどろいて、回していなかった腕を遼雅さんの腰に回したら、あついため息が耳元に掠れた。
「柚葉」
「は、い?」
「携帯は?」
「あ……、鞄の、なかです」
「……よかった」
確かめるように抱きしめられて、さすがに意味が分かってしまった。
「ごめんなさい、また連絡、無視していましたね?」
「……さすがに今回は、かなり心配しました」
「えっ! ごめんなさい。ぼやっとしていて……」
「うん、わかった。俺が勝手に不安になっただけです」