【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
「よし、じゃあ、準備しようか」
「はい」
「今日もよろしくね。柚葉さん」
朝の準備は女性のほうが時間がかかるからと言ってキッチンに立ってくれる遼雅さんは、どこからどう見ても完璧な貴公子だ。
ついでにしっかりとした献立の朝食を作ってくれるところも含めて素敵だと思う。
着替え終えてお化粧まで済ませたところで遼雅さんが近づいてくる。
長い睫毛に覆われた目でじっと見つめてくるときは、たいてい何かを訴えかけようとしているのだと知っている。
そして、今ここで何を訴えたいのかは、私にもよくわかっていた。
「柚葉さん」
「はい」
「口紅、もう塗ったの?」
すこし恨めしそうだ。苦笑して頷けば、わかりやすく拗ねた瞳を作った人が自然に髪を撫でてくれた。
身支度を済ませている間、ふいに近寄ってきてキスをされる。遼雅さんのルーティンは謎で、いちいち気にしていたら頭の容量はすぐにいっぱいになってしまうだろう。
気にしない。それが処世術になりかけているところだ。
「さっきもいっぱい、キスしてもらいましたよ」
「俺はもう一回したいです」
「……その目、弱いんです」
「知ってます。瞳が震えるから」
くつりと笑って、頬に手を寄せられた。抗議する暇もなく、軽いキスが額に落とされる。
「明日はその可愛い口にさせてください」
ああもう。
いくつ心臓があっても、全然足りない気がする。
「……善処します」