【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
このマンションから出れば、わざわざ左右の道に分かれて歩くことになる。
専務付きの秘書をしている人間が結婚相手というのは、外見がよくないらしい。
契約結婚だからなおさらそうだろうけれど、ご飯を食べ終わって準備が終わるまで、遼雅さんは必ずソファに座って新聞に目を通しながら私のことを待ってくれている。
わざわざ遠回りして出勤している遼雅さんを思えば、つねに同じ言葉が出た。
「遼雅さん、先に出てしまっていいですよ」
首をかしげて告げれば、新聞に視線を預けていた人の顔がこちらを見た。すこし困った人を見るような瞳で見つめられて、うっと喉に詰まりかけた。
遼雅さんの瞳は綺麗だ。すこし色素が薄めの瞳には、つねにひまわりのような輪が浮かんでいる。
「俺は柚葉さんと、もうすこし一緒にいたいです。だめですか?」
「だめ、ではないですけど」
「じゃあ、終わるまで待っています」
いつもこの調子だ。
本当は一緒に歩いて、不届き者がいないか確認しなければ不安になるとも言われていた。本当に甘やかすのが得意な人だと思う。
一生懸命準備をして、ようやく立ち上がった。同じように遼雅さんが新聞をたたんで立ち上がる。身長が高いから、横に並ぶと見上げることばかりだ。