【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
遼雅さんとの出会いは、昔夢見た雨の日の駅前でも、放課後の調理室でもない。
『橘遼雅と申します。今日からよろしくお願いします。ああ、あまり固くならないで大丈夫です。私も堅苦しいのは苦手なほうなので』
初めて出会った日も、やさしくまっすぐに見つめてくれている人だった。
冷たくなっている暇はどこにもない。
ぎゅっと抱き込まれたら、あつくるしさで目が回ってしまいそうになった。お腹に回された手に上から触れて、私を覗き込む旦那さんを振り返る。
「……ほしいです」
正直に告げたら、すこしだけ拘束を弱めた人にやさしく口づけられた。
離れている時間のほうがずっと少ない。
この家にいる時は、ほとんどずっと抱きしめてくれている人だ。全力で大事にしてくれているとわかっているから、どこまでもあまえたくなってしまうのだと思う。
「よかった。いらないって言われたら俺もおかしくなってたかも」
「もう、遼雅さんが言ったら冗談になりません」
「ごめんごめん、おどろく奥さんの顔も可愛いから」
依存と孤独の境界線はひどくあいまいだ。
どこまでもあまやかされて、自分もいつか遼雅さんにひどいことをしてしまうのではないかとたまに怖くなったりしてしまう。
けれど、そのたびに、遼雅さんが近くへきて抱きしめてくれるから、心から信頼して、いつも愛のありかを大切に守り続けていられるのだと思う。