【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
「もう、終わったんですか?」
「はい、お待たせしました」
「もっと長くてもいいくらいなのに」
「ええ?」
「そうしたら俺は、もっと長くかわいい奥さんを盗み見ていられるのになあ」
とんでもない言葉に心臓が止まりかけて、必死で呼吸を繰り返している。
遼雅さんのあまやかしを真に受けたら、大変なことになる。頬に受けた女の人の手を思い返しながらふるふると顔を横に振った。
「嫌ですか?」
「い、嫌じゃないです」
反射的に言いながら、やわらかく繋がれた指先に心がいっぱいいっぱいになった。
優しい瞳は、ただ私の目をじっと見て、もう一度「かわいい」と囁いていた。もう、朝から忙しい。
ちゃっかり私の分まで荷物を持った遼雅さんが玄関の端に二人分の鞄を置いて、名残惜しそうに手を離した。
遼雅さんと同じように靴を履いて立ち上がれば、すでに準備を終えたらしい人がこちらを見て、軽く両手を広げてきているのが見えてしまった。
眠るときだけで良いと言ったはずなのに、遼雅さんはこうして定期的にあまやかしてくるから、ずるい人だ。
「柚葉さん、抱きしめたいです」
抱きしめてほしいと言ったのは私のはずなのに、遼雅さんはいつだって私のためじゃなくて、自分のためのことのように誘ってくれる。
だから、断ることもできずにあまえてしまうのだ。本当に、こまってしまう。