【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
実家に婚約者を名乗る女が現れたと聞いたのは、専務取締役の就任が内定したときだった。
何を言われているのか全く理解ができず、駆けつけてみれば、営業部の部下にあたる社員だ。
俺の顔を見て愛おしい恋人に微笑むような顔つきをした女性に、内心またなのか、とため息を吐きたくなった自分に辟易としてしまった。
「橘」
「……ん、おつかれさま」
軽く手をあげて、すぐ目の前の席に座る男を見据える。人事部長の座に居座っているその男――淺野は現社長の息子で、俺とは高校からの付き合いでもある。俺を役員に追い立てた張本人だ。
「いや、お前はすげえな」
「褒めることじゃないと思うんだけど……」
「何人目よ?」
「このポストに付けられてから、増えてる気はする」
「否めない」
部下として大切にしているつもりが、どこかでほころびが生じてしまう。どこまでやればいいのかがわからないから、誤って、特別な関係だと思わせてしまうらしい。
唯一の救いは、秘書役についてくれた青木さんが、新婚かつ夫を愛する理知的な女性だったことだ。
俺が巻き起こしてしまう珍事件にも、からかいを入れてくるようなタフさに助けられていると言っても過言ではない。