【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
「遼雅さん、お仕事は?」
「あれはもういい。柚葉さんのほうが大事」
私と同じく、薬指にシンプルな指輪が光っている。
私の指に嵌っているそれを緩く撫でた人が、顔をあげて「傷ついてなくて安心した」と笑った。たぶん、指輪のことじゃなくて、私の手のことを言っているのだろう。
返す言葉は、常に困っている。
「でも、専務はお仕事お忙しそうで……」
「もうそれはおしまい。柚葉さん、今の俺は、きみの何だっけ?」
とんでもない人と結婚してしまったと思う。何度でも思っている。
顔を寄せてくる人に動揺が駆けまわって、ようやく口を開いた。
「だんなさん、です」
「うん、そう」
満足そうな手が、頬を撫ぜる。こんなにスキンシップの多い人なら、そりゃあドツボに嵌めてしまうだろう。目が回った。
「かわいい奥さんが、傷ついてなくてよかった。これは片付けておくから、ソファで待ってて」
「え、いや……」
聞く気は全くなさそうだ。
リビングに戻って、飾られたフォトフレームを見つめている。今は紙を入れるものよりも、電子フォトフレームが主流になってきているらしい。
もちろん遼雅さんが設置したそれには、結婚式の様子がエンドレスリピートされている。どこからどう見ても円満な家庭だ。
その新婦が、ぎこちない笑みを浮かべていること以外は。