【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
柚葉の仕草一つで、俺を全面的に信頼してきているのがわかる。
俺がどこかへ連れ込んだとしても、柚葉は疑うことなく後ろをついてくるだろう。そうして何度か危険な目に遭いかけていることを、本人は全く理解していないからおかしい。
「お蕎麦屋さん、入れるかなあ?」
「知らねーよ」
予約したわ。ボケ。
胸中で突っ込む声を出さずに、なるべく柚葉がついてこられる程度の歩幅で歩く。
自分の中に柚葉を気遣う何かが確実に根付いている事実が面倒だ。思っているのにやめられないから、こいつは魔性の悪魔だった。
風に煽られた髪を整える指先には、すこし前から指輪が嵌められるようになった。ついに佐藤柚葉が結婚したと知れ渡ると、真っ先に問い詰められたのは当然俺だった。
『お前! あんなに否定したくせにやっぱりシュガーちゃんと!?』
ずいぶんと可愛らしい名前をつけられているくせに、柚葉に話しかける人間は少ない。そうなるように、必死で振る舞いを指導してきたのだが、すべて橘遼雅に崩されてしまった。
『俺じゃないっすよ』
正直に告げたのと同時に、営業部に沈黙が走った。
営業部のフロアは全面ガラス張りというプライバシーもへったくれもない内装になっている。