【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
「柚葉さん」
「わ、」
後ろから声がかかる。思ったよりも時間が経ってしまっていたみたいだ。振り返って、ソファに腰かけている人と目が合ってしまった。
『俺と契約結婚、してくれませんか?』
持ち掛けられた時には、ひどく驚いた。狼狽えていたともいえる。遼雅さんには、そういうふうには一切見えなかったみたいだけれど。
「柚葉さん、こっちきて」
「……何する気ですか?」
手を広げて、すでに待ち構えている。
契約結婚を持ち掛けられたはずだ。利害の一致で、婚姻届にサインした記憶もある。
「キスするだけです、ダメでしょうか」
それがどうして、こうなったのか。不可思議すぎる。ぼうぜんと見つめていたら、遼雅さんが小首をかしげてこちらを見つめてくる。
可愛らしい仕草を仕掛けてくる年上の男性。というか会社の専務だ。
「柚葉、おいで」
温厚そうな声に誘われたら、断るすべなどなくなってしまう。
おそるおそる近づいて、すっぽりと抱きかかえられる。結婚の契約に、こういうものも含まれているのだろうか。ちらりと上を向いたら、額にちゅうっと口づけられた。
目がまわる。
「かわいい」
たぶん、契約の範囲内に、含まれているのだろう。覚えなおそうと決意して俯いた。
気にしたら負けだ。
表情筋が仕事をしない24歳OLは心を殺して、心地よい胸に額を擦らせている。一人がさみしかったのは本当だ。
「遼雅さん」
「うん?」
「眠ってしまいそうです」
「あはは、いいよ。ずっと抱きしめていようか?」
「お布団に……」
とにかく、橘遼雅の腕の中が心地よすぎるのがよくない。
「……おやすみ、かわいい奥さん」
本当に、どうしてこんな生活になったのだろうか。