【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
でたらめなようで鋭い先輩を見送って、専務付きの秘書室の備品を一つずつオフにしていく。
日報をあげてから、あらかた荷物を片付けて、いつもと同じように専務の役員室の扉を三度ノックした。
「はい」
「佐藤です」
「どうぞ」
重厚に見えて開きやすいドアだと思う。すこし力を入れるだけでデスクに向き合っている人と目が合ってしまった。
眼鏡は、仕事をしている時だけかけていると聞いた。
シルバーのフレームは橘遼雅の印象をアンニュイかつ理知的なムードに変えてしまっている。
じっとこちらを見つめる人に首をかしげながら、後ろでドアがぱたりと閉じる音を聞いた。
次にはふわ、ととろけそうに微笑む瞳に囚われてしまう。
「専務、」
「――こっちおいで」
二人になると、急にスイッチが入ってしまうのだろうか。困って見つめていれば、首を傾げた人がもう一度声をあげた。
「柚葉さん、こっち、来てくれませんか」
こんなにもやさしい声で提案されて、断れる人なんているのだろうか。
いつも困ってしまう。
おそるおそる近づいて、片手で眼鏡を外した人の前に立った。
椅子に座っている専務——遼雅さんは上目遣いがセクシーで、見ているだけでも眩暈がしてしまいそうだ。