【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
温かい家庭というものには、漠然とした憧れがある。というよりも、かなり具体的な憧れがある。
相手になる人は、誕生日には料理を振舞って胸いっぱいの花束を贈ってくれるし、出会いはそう、雨の日の駅前なんかが良い。
第一目標にしていた放課後の調理室はとっくに通り過ぎてしまったから、私の場合は雨の日の駅前だ。
付き合い始めたら、デートのたびに手作りのお菓子を作ってくれて、いつも笑ってくれている人。身長は高くて、抱きしめられたら思わず安堵してしまうような、そんな人だ。
具体的過ぎて、見当たらないまま24歳。
事務職の女性社員なら定時退社で合コン三昧なのかもしれないけれど、残念ながら時短勤務の先輩のフォローで手一杯で、最近は残業ばかりだ。
目ぼしい彼氏もいない24歳。
あこがれはあこがれなのかなあ。一人で思ったりしている。
周りに感情表現が豊かな人ばかりが居たせいか、いつの間にかあまり表に表情が出にくい性格になってしまった。これは主に幼馴染の壮亮のせいなのだけれど、人のせいにしていても、仕方がない。
「つ、かれた」
とにかくその日の私は、疲労困憊だった。
新卒であれよあれよと秘書課に配属され、社内取締役のなかでも比較的内部にいることの多い会長の秘書からスタートさせられた。
そのうち、生まれたばかりの陸斗くんのお世話をしなければならない先輩と代わる形で、うちの専務——橘遼雅の秘書になることになった。