【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
橘専務の雰囲気は、私の義理の兄にかなり近しい。
ふわふわした見た目と同じく性格も温厚で、いかにも女性に人気そうな人だ。ゆっくりと時間が流れているように見える。実際は、見えているだけだ。
「こんなに忙しい人だったのかあ」
橘遼雅は、社長の右腕として営業畑から華麗なエリートコースを突き進んできた出世頭だ。
親族でもなく、コネでもなく、普通の新卒として入社してきた人間では、最年少の取締役らしい。その肩書に恥じない素晴らしい働きっぷりの人だ。
「佐藤さん、あ、ごめんね。休憩中でしたか」
「あ、いえ。すみません、大丈夫です」
内心かなり驚いた。
後ろからひょっこりと顔を出したその人は、すこし申し訳なさそうな顔をしている。時刻はすでに21時を過ぎようとしている。それなのに、ネクタイをくつろげることもなくしっかりと着こなして、朝見たままの爽やかさで私の前まで来てくれた。
秘書課はもうすでに私一人だった。必然的に二人きりになる。もちろんやましいことは何もない、はずだった。
素直に素敵な男性だと思う。
年齢は29歳だと聞いた。初めに聞いたときには、もっと若いと言われても納得できると思っていたけれど、この抜群の働きっぷりを見ていたら、もっと年上でもいいようにさえ思えてしまうから不思議だ。
「佐藤さんまで残ってもらってごめんね。今打ち合わせが終わりました。私も帰りますから、佐藤さんは先にあがってください」