【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】

流暢なスピードに振り落とされそうだ。それなのに、目が合ったらすべての時間が止まってしまう気がした。

そらせない。


「抱きしめて良いですか?」


問いかける口調なのに、私が答えられないうちに腕の中に引き込んでしまう。

服を着ていてもわかるくらいに温かい。匂いは前に倒れた私の体を抱きしめてくれた時に香ったものと同じく、ひどく落ち着くものだ。

くらりと視界が揺れてしまった。しがみつきたくなるような匂いだ。

一方的に抱き寄せられて、腕の中で微睡みかける。これはだめだ。抗いがたい。


「どうですか」

「ん、まずい、です」

「うん?」


耳にやさしい低音が鳴って、胸がぞわぞわしてくる。細胞がぴったりと結びついてしまうような感覚に背筋が震えた。


「あたたかいですか?」

「……とっても」

「悪くない?」

「わるいなんて、ぜんぜん、です」

「じゃあ、俺でもいいですか」


だめだ。断る理由が、思い浮かばない。

声に詰まって、すこし緩んだ拘束の中から橘さんの瞳を見上げている。

とびきりあまい。

もう、チョコレートみたいな、アイスキャンディーみたいな、お砂糖菓子みたいな、ただあまい瞳が笑っている。


「たちばなさん、が、ほんとうに好きな人を、見つけるまで、なら……?」

「あはは」


しどろもどろに言えば、橘さんがおかしそうに笑っていた。その子どもみたいな笑顔に、また胸がきゅっと詰まってしまった。
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