【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
もう、何をしようとしているのかはよくわかった。

ただ泣きそうな目で、目の前の人をじっと見つめている。


「俺のこと、知ってもらう代わりに、柚葉さんのこと教えてください」

「私、ですか?」

「うん、それで、来週はご両親に挨拶に行こう」

「まっ」

「柚葉さん、指先が冷たい。抱きしめて良い?」


指先をとって、丁寧に一本ずつ口づけられる。おかしくなりそうなくらいにやさしくて、身体が震えた。


どうしよう。どうしたら。

そればかりが頭の中をぐるぐるしていて、「ゆずはさん、」と囁かれたら、音のあまさに震えて、意味も分からずに頷いていた。

契約結婚に、こういうことは含まれるのか。


「ああ、もう、かわいい」


どろどろにあまくて、ただおぼれてしまう。




翌日の朝、目覚めたら、今までにないくらいに自分の体が熱くなっていることに気づいた。しっかりと抱き込んでいるのは、平日毎日顔を合わせている会社の王子様だ。

うつくしい寝顔に狼狽えて、徐々に昨日の熱がぶり返してくる。

どういう表現が適切なのかは悩むところだけれど、あまりにも丁寧で、やさしくて、愛されていると勘違いするにはじゅうぶんな熱だったと思う。


これは溺れてしまうに決まっている。

どうにかどきどきする鼓動をやりこめたくて、顔を合わせている姿勢から、静かに身体を背けようとして、込められた力に止まってしまった。


「ん、ゆずは……?」

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