【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
欲望に抗って、困った笑みを浮かべる人に視線を向ける。
「申し訳ない。セクハラになるところでした」
「いえ、問題ありません」
というかセクハラのようなことを考えていたのは、私のほうなんだけれどなあ。言えるはずもなく黙り込んだら、橘専務がもう一度口を開いた。
「お詫びに、オレンジジュースでもと思って」
「わざわざお気になさらなくても……」
「いや、佐藤さんにはかなり迷惑かけちゃってるからなあ。プライベートなことまで手配してもらって」
タクシーの配車くらい、橘専務がお願いすれば、この世の女性は誰でも立候補する勢いで集まってくるだろう。
透明感のあるうつくしい笑みで「これくらいのもので申し訳ないんですが」と言われると、引くわけにもいかずに受け取って鞄の中へと押し込んだ。
「ありがとうございます。大切にいただきます」
「あはは。佐藤さんって、本当に可愛い女性ですよね」
「えっ」
そんなことは、はじめて言われた。
橘専務はやさしい人だけれど、むやみやたらと誑し込むようなことを言ってくる人ではない。ぽかんとして見つめたら、失言だと判断したらしい橘専務が自分の手で口元を押さえた。
「ごめん、つい……、いや、これこそセクハラですよね」