冷凍庫の中の騎士
買ってきたご飯ものを食べながら、タブレットで映画配信のサブスクを起動する。
最近は海外ドキュメンタリー番組中がお気に入り。パッと観れて、クスッと笑えて、お酒にちょうどいいのだ。
「んー、どれにしようかな、……あ、最新話きてるじゃん! 『恋愛サバイブ第三シーズン』にしよー!」
『恋愛サバイブ』
ひとりの超お金持ちハンサムを狙って、女の子たちが熾烈な戦いを裏で繰り広げる……というのがこのドキュメンタリーの構成だ。しかし、第三シーズンは違う。
出てくる女の子がみんなかわいくて性格がよくて、しかもハンサムもいい人。前回の話で残り三人になったのだが、もうだれとだれが付き合っても応援できるので安心感して観ていられる。
音楽を止めて、お酒を足して、その動画を選択した。
『恋愛サバイブ第八話、前回までのあらすじ……』
第八話の舞台はロンドンだった。
クリストファーは残っている、マリア、ジャクリーン、ヤミンの中からだれを選ぶのだろう。画面の中の彼らがグラスをかかげるのにあわせて、こちらもグラスをすこし持ち上げる。
「んふふ」
これもまた一人暮らしの醍醐味だ。
三十分、女の子たちのアピールと気遣い、ハンサムの優しさや葛藤を経て、姉御気質だけどロマンスがすきで、いつも優しいジャクリーンが抜けることになった。選ばれなかった彼女は、しかし誰よりも美しく微笑み、ハンサムと残った彼女たちに向かって『あなたたちと過ごした時間、とてもすきだったわ。美しい思い出をありがとう』と残して去っていった。
「……ジャクリーン……」
そうしていたら、お酒が空いていた。
「んー……」
わたしはお酒はやめて、コーヒーを飲むことにした。夜はまだ長い。お湯を沸かして、チョコ菓子を開け、はたと思い出す。
「そういえば冷凍餃子がある……」
どうしてそんなことを思い出してしまったのだろう。そしてどうして夜になるとそんなものが食べたくなるのだろう。絶対に今から食べちゃダメだ。だってお腹は一杯なのだ。
それに冷凍餃子とはいえ、フライパンを使う。洗い物がふえる。それは手間だ。冷蔵庫の上段にある冷凍庫の扉を眺める。
「……おいしいんだよなあ」
わたしは悩んだけれど、結局、冷凍庫を開けた。だっておいしいんだから仕方ないのだ。
――しかし、そこにあったのは、全く、すこしも、全然想定してなかったものだった。
「……ど、ういうこと?」
――冷凍庫の中には餃子ではなく、霜がついた超ハンサムの首があったのだ――