冷凍庫の中の騎士
「餃子が!? どういうこと!!! 餃子は!!?」

 わたしは尻餅をついて叫んだ。
 混乱のあまり、意味がわからないことを叫んだ。だって冷凍庫開けたら人の首とご対面だ。しかもハンサム、眠っているみたいにきれい。でも首だ。我が家の冷凍庫に首だ。

「なんで?!?!」
 
 もちろんこんなもの知らない。なんでこんなものが、あんな人知らないし、この家の鍵はわたししかもってないし、え、まって、どういう……ゴロン、と音がした。
 尻餅をついたまま、音の元を見上げる。
 開いたままの冷凍庫の扉、その奥から、ゴロン、と『なにか』が転がる音。いや、『なにか』なんて決まっている。見ない方がいいとわかっているのに体が動かない。……視線もそらせない。
 ゴロン、と音がする。
 ――ゴロン、と、――首が、冷凍庫から、落ちてきた。

「あっ……!!」

 咄嗟に両手で受け止めてしまった。自分の反射神経のよさが憎い。元バレーボール部セッターの力が憎い。

「ど、どうしたら……」

 自分の両手の中の首。目を閉じているハンサムの首。体があればラブロマンスっぽいが、しかし、首だ。

「な、なんであったかい……? し、死にたてってこと……?」

 首はあったたかった。死体でもマニキンでもなさそうなあたたかさ。要するに人肌。さっきまで冷凍庫にはいっていたとは思えないあたたかさ。
 つるつるした肌で、さらさらの金髪。霜がついた睫も長くて、金髪。美青年という言葉が似合う顔だ。体がないからなんとも言えないけど、多分わたしと同じ年ぐらいの二十代前半だろう。
 そんなハンサム(首だけ)。

「いらない、こんなの、……どうしよう、……け、警察……?」

 わたしがそう呟くと、ぴくり、と目の前のまぶたが『動いた』。

「え……」

 手の中でぴくぴくとその首が動く。まるで『目を覚ます前』みたいに。その首はビクビクと動き、そうして、ふ、と『息をはいた』。それから深く息をすると『目を開いた』。
 夕焼けみたいな色の瞳。
 紫からオレンジのグラデーションをしたその瞳が、真っ直ぐに、わたしを見ていた。

「……これは、どういうことだ?」

 アニメでしか聞いたことない美しい声で『その首』は喋った。
 

「ぎゃああああ?!?!」
「うるさいな」

 わたしが叫ぶと手の中でその首、――いや、彼はため息をついた。これがわたしと彼の出会いだった。

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