転生した幼女賢者は勇者特科寮管理人になりまして
共同通路は全開放して、管理人棟に行ってみる。
一応二階建て。
地下一階は倉庫のようだ。
入ってすぐにテーブルと椅子。
本棚と左の方に扉と階段がある。
他と違って、ここは埃っぽい。
清掃魔法でどうこうするものではなく、単純にこの建物が長年放置されてカビ臭さがこびりついているのだろう。
(何年放置されていたのだここは。あの子たち、何年管理人も担当教師もなくここにいるんだ?)
また腹が立ってきた。
建物を見て回るついでに、窓を片っ端から開けていく。
なによりショックだったのはベッドもカビ臭かったことだろうか。
こんな場所では寝たくないので、屋上の洗濯干場にマットレスを転移させ、天日干しにすることにした。
しかし、一日干したところでこの匂いは取れないだろう。
近いうちに買い直さなければならない。
「はあ……お金が欲しい」
実家には頼れない。
むしろ、実家に仕送りしなければならないのに。
「……よし、稼ごう」
とにかく今、金がない。
屋上から空を見上げ、腰に手を当てがって強く頷く。
先程、寮規則を調べた時に『管理人の副業を禁ず』と『寮生の副業を禁ず』を廃止してきた。
教員免許を取得して、勇者候補たちの担任教師になった暁には校則も片っ端から変えてやるつもりだが、まずは……金だ。
とにかく今、金がなさ過ぎる。
家との連絡手段として便箋は購入したが、まずもって食費がない。
食糧はたまに休みの日に王都近郊の森で魔物を狩ったり、木の実やきのこ、薬草などを採集して手持ちは足りるがそれもいつまでもあるわけではない。
それに服や下着、その他消耗品や雑費、仕送りを思うとどう考えても稼ぐ以外の選択肢がなかった。
(そういえばここの管理費はどうなっていたのだろう? 帳簿のようなものは金庫になかったけど……管理人棟の中を探してみるか)
やることは山のようにある。
立ち上がって、管理人棟の本棚という本棚を片っ端から調べて分かったのは割ととんでもない事実。
「バカな……生徒の親からの寄付金で管理費を賄っていた、だと……」
不遇だとは聞かされていたし、これまで通っていた王立学園内は隔離されている彼らを嘲笑う風潮だった。
おかしい、おかしい、と思っていたがよもや経費まで切られていたとは思わない。
ここに公爵家や侯爵家の貴族がいなければ、では……どうなっていたのか。
呆れた。
そして、また腹が立ってきた。
ますます必要ないだろう、勇者特科。
(つまりこれからは自分たちの生活費は自分たちで稼いでもいい、ということだな)
副業禁止、廃止して良かった、と心の底から思いながら帳簿を本棚に戻す。
学園側にも廃止した事項の報告は必要だろうが、まずはそれによる『成果』を一緒に突きつけて黙らせねばならない。
つまり——。
「ふふふふふ……ボクのお金は増えるし彼らの訓練にもなるし、『成果』にもなる……一石三鳥とはこのこと……ふふふふふふふ」
お分かりだろうが、ろくなことにならないとだけは宣言しておく。