転生した幼女賢者は勇者特科寮管理人になりまして
 
「よし、では今日はお前たちに一般的な仕事なども説明しながら魔物の狩り方なども教えよう。ボクは教員免許がないから、授業とかではなく、冒険者として学ぶ感じで頼む」
「? よく分からんけど分かったぞ!」
「は、はい」
「じゃあ出かけるぞ」
「おーーう!」

 フリードリヒのテンションがものすごく高い。
 彼からすれば八年ぶりの外の世界。
 門を出ると、途端に瞳の輝きが増す。
 本当ならば、彼はあと五年、ここから出ることはできなかったのだ。
 そう思えばなんとも微笑ましい。

「道をちゃんと覚えるんだぞ」
「うん! うん!」
「こんなに早くまた施設から外さ出られると、思わんかったべさ」
「そうだなぁ」

 それからテンションの高いフリードリヒが「おれっちのことはフリードって呼んでもいいよ!」とか「おれっちの父ちゃん、騎士団にいるんだ」など色々と話し始めた。
 それに呼応するかのように、モナも「うちの実家はこんなところで〜」と止まらなくなる。
 いや、喋るのはいい。
 彼らの情報は今後の役に立つと思うので。

(でもこいつらちゃんと周りの景色とか道順とか覚えてるのか? ボクみたいに[探索]の魔法が使えるならいいけど……使えなさそうだよな。迷子になりそう)

 しっかり見ていてやらねばダメだな、と強く思う八歳。
 八歳にそう思われている十五歳男子と十六歳女子。
 一応きちんとついてはくるのだが、お喋りに夢中で人が増える大通りに出ると人にぶつかりそうになる。
 なので二人の尻を引っ叩き、「落ち着け」と一喝してから冒険者協会の建物へと引き連れていく。
 なんでそんなにお喋りが止まらないのか。
 施設内でも喋る機会はありそうなものだが、モナはエリザベートがいる場所では訛りを注意されるので喋れず、フリードリヒはヘルベルトに「落ち着きがない!」と怒られるから喋るのを我慢しているらしい。

(貴族らしいけれど……)

 それが爆発している。
 平民の彼らに貴族の教育は耐え難かろう。
 たまのガス抜き、ということで今日は存分に喋り倒させるのがいいかもしれない。

「ほら、そろそろ冒険者協会だぞ。しゃんとしろ」
「うん!」
「はいだ!」

 ダメだ、完全にガスと共に気も抜けた。
 肩を落としつつ、扉を開ける。
 賑わいが急に静まり返るのは、どこの冒険者協会建物も同じらしい。
 気にすることなく受付に進み、浮遊魔法で浮かんでカウンターの上に手を乗せる。

「この二人の冒険者登録をしたい」
「ひっ! ……あ、あ、ア、アーファリーズさんっ……! わ、分かりました!」

 この受付嬢はリズのことを知っている人物だったらしい。
 それなら話は早いな、と床に足をつけて二人を呼び寄せる。
 だが、隣接する酒場にたむろう冒険者が、みんなリズを知っているようではない。
 何人かはこちらを見ながら「誰だあのガキども」と訝しんでいる。

「管理人さんはもう冒険者登録を済ませているのか?」
「済ませてるよ。在学中に登録したんだ。学費稼がなきゃいけなかったからね」
「え! 自分で学費稼いでたんか!? すげーだべな!?」
「冒険者は日雇い労働者みたいなものだから、割りのいい仕事をするにはもってこいだったんだよね。キミたちもこれからは自分で稼いで、将来のために貯めておくなり、たまの贅沢をしたりするといい」

 ボクは実家に仕送りしなきゃいけないけど、と心の中でつけ加える。
 この二人にそれを言うと、なんだか「自分たちも仕送りしたい」とか言い出しそうだったからだ。
 それ自体は悪くないと思うが、まずこの二人の実力が分からない。
 受付嬢が差し出した書類にサインをする程度の学力はあるようだが、では、自分の実力を正しく理解した上で自分の実力相応の依頼を選び取ることができるのかどうかは怪しいところ。

「書類に不備はありませんね。では、こちらが冒険者証となります」
「おおー!」
「ありがとうございます!」

 細いカード状の冒険者証を受け取って、はしゃぐ二人。
 冒険者証は皮のカードケースに入れて、腕に巻きつける。
 それもセットでもらって、早速二人は腕にそれを装備した。

「かっけー!」
「ちなみに、冒険者に関して説明は必要ですか?」
「そうだな……フリードリヒ、モナ、聞いておくといい。ボクは依頼を探してくるから」
「「はーい!」」

 二人とも非常に素直である。
 まあ、冒険者に関しての説明といってもリズにとっては一般的な範囲。
 冒険者は上はAから下はDまでランクがあり、さらにその中でカラー分けされている、という内容。
 優秀になればプラチナ、その次がゴールド、その次がシルバー、一番下はブロンズ。
 登録したら『Dランクブロンズ』からスタートだ。
 その後、達成した依頼内容によってランクアップを申請できる。
 依頼の過程は冒険者証が記録するので、ズルはできない。
 腕につけるこの冒険者証は、記録媒体になっているのだ。
 こう見えて、これは魔道具である。
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