いかないで
未夏のか細い手が鉄平の腕を掴む。鉄平が驚いたような顔で振り返った。未夏は泣き出しそうな顔で震えながら言う。

「いかないで」

それしか言えなかった。頬を我慢していた涙が伝う。その涙を優しく鉄平は拭い、優しい目で言った。

「泣かないで、夏未。この手は尊き明日を掴むんだ。お願いだから、最後くらいは笑って見送ってくれ」

鉄平はそう言ったものの、夏未は笑顔を作ることさえできなかった。鉄平は最後にニコリと笑い、列車の中へと姿を消す。そしてその扉は無情にも閉まり、動き出していく。

「行かないで……。私を置いて行かないで……」

未夏は体を震わせながら、その場で泣き続ける。いつの間にかホームにいるのは未夏だけとなっていた。それでも涙は止まらない。

もう二度と会えないなど、思いたくない。二人の好きなひまわりの花が惜別の餞など思いたくない。ただ、生きて帰ってくることを願い、未夏は泣き続ける。

雨に打たれるひまわりの花と共に……。
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