半妖の狐耳付きあやかし令嬢の婚約事情 ~いずれ王子(最強魔法使い)に婚約破棄をつきつけます!~
 あの時、彼女の目は、真っすぐサイラスを見ていた。

 他の令息には警戒心マックスの野生みたいにキリッとしているのに、サイラスにだけは〝普通〟で。

 ――それがなかったら、もう少し、喧嘩でもいいからそこにいてくれたのか?

 サイラスはその後、香料のアクセントとして使われることがあるという高級果実を特定し、それが入っていない香水に変えた。狐が動物であることも考え、匂いが強いものもやめた。

 そして今、リリアはサイラスと話してくれている。

 その効果には驚いた。先日までの避け具合なんて忘れたかのように、彼女はサイラスのちょっとした言葉にも、きちんとつっかかってきて言いたいだけ文句を言ってきた。

 腕を伸ばしたら、届く距離であると気付いていないのだろうか?

 十二歳のあの日、父親に連れて離れられていく姿を見送った。学院で再会してみたら、遠目で一瞬だけ睨み返して、終わり。

 その彼女が、無視せずサイラスと面と向かって、競い合ってくる。

 そんなことを思い返していたら、異動してきたばかりの書記官がなるほどと頷いた。
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