半妖の狐耳付きあやかし令嬢の婚約事情 ~いずれ王子(最強魔法使い)に婚約破棄をつきつけます!~
 相手は王族である。サイラスは珍しくじっとしていたが、直後、後ろから様子を見ていた使用人達と一緒になった、リリアは慌ててツヴァイツァーを取り抑えにかかった。

「父様やめて! 私は大丈夫だから、いったんその拳を引っ込めてっ」
「旦那様っ、さすがに王子殿下相手に、それはまずいです!」
「普段の口調になってますっ」
「ははは、さすが旦那様。俺、そういう感情直結の後先考えないところ、結構好きですよ~」

 ぎゃあぎゃあ騒ぎながら、ツヴァイツァーをみんなでサイラスから引き離す。

 一人だけ面白がってい笑っているアサギに気付いて、コックの一人が目を走らせた。

「アサギ様も! 見てないで手伝ってくださいよ!」
「というかさ、なんでコック君達まで来ているんですか」
「そりゃあ、アサギ様が珍しく真剣な顔で『魔力が』と上を見たからに決まっているでょうっ。そんなん、片付けを放って一緒に確認するに決まってます!」
「珍しくって、ひどい」
「不法侵入者だったら、俺ら全員で叩き出してお嬢様をお守りしますよっ」

 その時、襟元を直したサイラスが、真っすぐツヴァイツァーを見た。

 サイラスは、胸倉を掴まれた後だというのに落ち着いていた。見据えられたツヴァイツァーが、ぴたりと静かになる。

 と、不意にサイラスが、彼のもとへと歩き出した。

「な、なんだよ」

 ツヴァイツァーが、つい普段の口調で言ったら、目の前まできたサイラスが、唐突に頭を下げて詫びの姿勢を取った。
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