半妖の狐耳付きあやかし令嬢の婚約事情 ~いずれ王子(最強魔法使い)に婚約破棄をつきつけます!~
 思い返せば、今日は遠目からもサイラスを見掛けていなかった。

 また魔法部隊の仕事か、王子としての公務でも入っているのだろう。

 才能と実力があり、最年少で『最強の魔法使い』の称号を得た。当時から彼は既に、大人と肩を並べて仕事をしていたから、学院生となった頃には両立状態だった。

「もう少し長く、子供として過ごしても良かったと思うんだけど」

 せめて十五、十六歳まで勉学などに集中させてもらえれば、こんなに多忙でバタバタ行き来することもなかったのではないか。

 その時、廊下の向こうを歩いている令息数人に手を振られて、リリアはハタとする。

 振り返ってみると、見覚えのない同学年らしき少年が三人いた。

「昨日は、図書委員会のお手伝いをありがとうございましたーっ」

 ああ、なるほど。後輩からその話を聞いたのか。自分達が不在の間に起こったことの件で、律儀に礼を言ってきているらしい。

 別にいいのよ。そう答えるように、リリアもぎこちないながら、ひらひらと手を振り返した。慣れない友好的な挨拶だったが、悪い気はしなかった。
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