半妖の狐耳付きあやかし令嬢の婚約事情 ~いずれ王子(最強魔法使い)に婚約破棄をつきつけます!~
「ごきげんよう、リリア様」

 自己紹介をして名乗り合った覚えもないのに、自分の名前くらいはご存知だろう、と言わんばかりの目線でアグスティーナが言ってきた。

 社交界で知らない者はいない、という姿勢が鼻についた。

「ええ、ごきげんよう」

 リリアは伯爵令嬢として、同じく作法を守って返した。だが、コンラッドに聞くまで知らなかったわよ、という思いを込めて名前は呼ばなかった。

「何かご用かしら。まるで待たれていたように思えるのですけれど?」

 リリアが先にそう言ってやると、後ろの令嬢達がちょっと動揺を見せた。そんな度胸もないのに、公爵令嬢が付いているから大丈夫、みたいに来たわけ?

 ますますリリアは顔を顰めてしまう。

 けれどアグスティーナは平然としていた。レディの嗜みと言わんばかりに、ドレスのスカートの前で手を合わせ顎を少し上げて述べる。

「それはリリア様の勘違いですわ。ただ、〝殿下のご婚約者様として〟放っておけないことがありましたので、お声をかけさせて頂いたまでです」

 強調された部分も、嫌な言い方である。

「昨日の図書館でのことは、婚約者様としていかがなものかと思いましたわ」

 唐突に、そんなことを言われた。
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