半妖の狐耳付きあやかし令嬢の婚約事情 ~いずれ王子(最強魔法使い)に婚約破棄をつきつけます!~
 それは『最強の魔法使い』の正装姿に身を包んだ、サイラスだった。突如として現れ、飛んで来た彼が、二人の間に割って入った。

「そちらにいるのは、大妖怪にして『力の狸神』の一つに数えられている〝タヌマ之山ノ大ヌシ〟だろう! どうか怒りをお鎮め頂きたい!」
「うっ、くそっ、ピンポイントで名前での鎮静魔法っ、そのうえなんだこの人間の魔力量は……!?」
「それからリリア! お前も妖力を抑えろ! 森の結界が揺れているだろう!」
「ぅえ!? あっ、はい!」

 続いてサイラスに怒鳴られ時、声に乗せられた魔力がガツンっと額にあたった。強烈な殴打を受けたみたいにくらくらした調子に、リリアも我に返り、妖力の放出を抑えた。

 途端に、一帯の想像しさが鎮まった。

 タヌマヌシが、「久々に痛かった」と額をもみ込む。同じく、少し目がチカチカしたリリアは、くそぅと頭を振って、前足で額あたりをぎゅむぎゅむと押した。

「相変わらずバカ力な魔力なんだから……」

 そう愚痴っていたら、魔法陣に乗ったサイラスが向かってきた。

「バカなのはどっちだ。自分の妖力量を考えろ!」

 今度は面と向かって怒鳴られ、リリアはビクーンッとした。
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