半妖の狐耳付きあやかし令嬢の婚約事情 ~いずれ王子(最強魔法使い)に婚約破棄をつきつけます!~
 慌てて確認してみれば、彼らは悲鳴を上げる気力さえ奪われたような泣きっ面だった。こちらをピンポイントで見つめたまま、静かにガタガタと震えている。

「可哀そうじゃないっ、というかホントなんで連れてきたのよ!」
「お前に謝らせようと思ったからだよ!」

 ……ん?

 サイラスの返答の内容が、すぐに理解できなかった。

「謝らせる? 何が?」
「派閥単位での、数々の嫌がらせだ。しっかり責任を取れと、昨日説得した連中にも改めて身に刻んでもらおうと、全員まとめて連れてきて――」

 と、早口で言ったサイラスが、そこでハッとした。

 急ぎポケットを探ったかと思ったら、一枚の紙を突き出してくる。

「そんなことより! これだっ」

 掲げて見せられたそれは、リリアが昨日書いた、婚約破棄を希望する手紙だった。

 しばし、場に沈黙が漂った。

「え。待って。大きな狐と狸でこんな大騒ぎなことになってるのに、『そんなこと』?」
「俺にはこっちが一番重要だ! 婚約解消の危機だぞ!」
「いや、あんた何言ってんのよ。ちょっと落ち着きなさいよ」
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