半妖の狐耳付きあやかし令嬢の婚約事情 ~いずれ王子(最強魔法使い)に婚約破棄をつきつけます!~
「旦那様の立場も考慮したうえで、どうしても婚約という道が断れなかった場合、いったん婚約をさせて、他からの縁談話を黙らせる手もあります」
「うーん、今後増えるのかなぁ」
「増えるでしょうね。第二王子がだめだったら、他の国王親族がわらわら出てくるんじゃないですか? ――ただ、仮の婚約をする場合は、しっかり考えないとリスクがありますよ」

 アサギが、間延びしたような声を装いつつ、ピリピリした雰囲気で続けた。

「旦那様は違いますが、人間の貴族って汚いでしょう? 婚約を解消できず、そのまま〝無理強いで体を結ばせられて〟強制的に結婚させられるパターンになったら最悪ですよ。それが、たんに姫様の妖力目的で、魔力の強い子供が欲しいとかいう、クソくだらない理由だったのなら、俺は、相手の一族を含めて関係者もろとも全員殺しますよ」

 リリアは、一部話が理解できなかった。でも、無表情なのにアサギが〝とても気が立っている〟のは分かって、ぼうっと見ていた。

 ふうむ、とツヴァイツァーが平気そうに考え込む。

「アサギは、ちょいちょい物騒だよな」
「ずっと世話を焼いてる、可愛い仔狐ですからね。――人間と違って、俺達の時間は長いんです。結婚を、ただの道具とする人間の思考は理解できません」

 望むだけの長い時間を、共に過ごすことができる。愛し合う時の長さは、人間の一生よりも、遥か。

 ツヴァイツァーは、少しの間きょとんとしていたが、ふっと柔らかな苦笑を浮かべた。

「オウカや他のあやかし達も、同じことを言っていたよ」

 でも命に限りがあるからこその、深い愛情だってある。それを分かっていたから、アサギは仕える者らしい仰々しさで「御意」と伯爵家の主人に応えた。
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