半妖の狐耳付きあやかし令嬢の婚約事情 ~いずれ王子(最強魔法使い)に婚約破棄をつきつけます!~
 けれど、この光景は、レイド伯爵家とその領地ではいつものことだ。

 使用人達がホッとして、今やるべき仕事のため動き出した。ツヴァイツァーが娘の無事に安堵しつつ、しばし娘と執事の喧嘩を困ったように見つめる。

 と、不意に、リリアの目から涙がこぼれた。

 アサギがギョッとして、長い二本の尾をぶわっとさせる。

「ひ、姫様!?」

 それを目にした瞬間、ツヴァイツァーの雰囲気は一変する。

 彼が、無言で動き出した。

 その一方、荒れ果てた伯爵邸の庭の一部を見渡していたハイゼンは、今にも倒れそうな顔だった。しかし唐突に声をかけられて、びゃっと飛び上がった。

「宰相殿。少しよろしいですか?」
「ッわぁ!? あ、ああ、すみません、レイド伯爵」
「第二王子は、王宮でもかなりの問題児だったのですか?」

 唐突に、呑気とも思えることを尋ねられて、ハイゼンは意図を掴みかねて半ば拍子抜けて「はぁ」と答える。

「そうですね、将来は王弟として兄上を支えるため、鍛錬にも励んでおられるのですが、武才にも長けているものですから、尊敬している父上や兄上以外は下に見ているところもあり、周りの教育者たちも苦労している、と言いますか……」
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