きみのこと、極甘にいじめたい。

「……り、理太は、キスしたことあるの?」


「なにを今さら。なかったら、キスなんか教えてあげらんないじゃん」


「たしかに……」



――ずきり、と胸の奥が痛んだのは、古傷のせいだろうか。


理太を好きだった過去のあたしが、ショックを受けているんだ、きっと。


「……理太、彼女いたことあるんだ」


「そりゃねー。離れてからどんだけ月日が流れたと思ってんの」


「……うん」


本当に、そのとおりだよね……。



「でも、俺は素直のことたまに思い出してたよ。底抜けに明るい声で”理太がんばれー”って、部活んときしてくれた声援とか」


「あー……。あたし、めちゃくちゃ応援してたよね」


理太のことが、好きで、好きで。


……普通に恥ずかしい黒歴史だね。



「あれ、俺すごい恥ずかしかったから」


「そんなことを……今、言われましても……」



今ぜったい、あたしの方が恥ずかしいから、許してほしいよ。



「でも嬉しかった。あのおかげで、どーでもいい部活が楽しくなった。素直には……転校してほしくなかった」



それは……友達として?

だとしても嘘でしょ。


転校の日、見送りに来てくれたのは……義務的に行かされたんだろう学級委員の二人だけだったもん。


申し訳なくて消えてしまいたい気持ち、悲しさ、孤独感。


ぜんぶが一気に新幹線で溢れて、この街につくまで、ずっと泣いてた。



……理太なんか好きにならなきゃよかったって、何度も思った。


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