きみのこと、極甘にいじめたい。
「「「きゃあああ!!!!」」」
ギャラリーの女子たちの声が廊下に響いている。
唇を離した理太は、その女子の唇に親指を添えて、敵意なんかまるでない顔して、見下ろして。
「ヤキモチの感覚くらい俺だってわかるから、きみが意地悪しちゃったのも俺は理解できるよ」
理太は怒ってるわけじゃない。敵意じゃない。まるで全部を受け止めてくれるみたいな顔して。
「だからその気持ちぶつける相手は、今度から俺にしてよ? 寂しいじゃん」
甘く響く言葉が、女子を熱らせる。
今度って、なに。ヤキモチで意地悪する気持ちがわかるって何。いくらでもキスするって、何。
嫌がらせしてきた人にまで、どうして優しくするの?
なんで、あたしの味方じゃないの。
……嫌だ、理太なんか。
ギャラリーに響く女子たちの声が、遠くなっていく気がする。
あたしは一人だけ取り残されかのように……愕然とふたりを見つめ続けた。
感情の読めない顔した理太と、廊下にへなへなと座り込んでしまった赤面の女子。
「…モメるなら、俺はキスくらいするよ? 減るもんじゃないしね。次はだれ?」
残る女子ふたりを見据える理太。
この前、あたしが傷を作ってしまった理太の唇は……今、別の子のリップで艶めいている。
ドクドクと心臓が低く音を立てる。
嘘みたい。
……ねぇ、なにしてんの。
なんで、キスなんて。
ヤバい、ヤバい。あたし、泣きそうだ、今。
……なんで、あの子にキスすんの。
ねぇ、勘違い女製造機……。
”素直にくっつかれたらドキドキするでしょ”
”ファーストキスとっておいてあげたんだよ”
甘い言葉、あたしだけみたいに囁いておいて……。
理太は誰にでも優しいってこと忘れるくらい、特別っぽく手のひらで転がして。
本当に中学の時と理太は変わんないね。
理太は、涙をためて睨んでいるあたしのことに気づいてない。
――眼中にない。
だって理太にとってあたしは、特別でもなんでもない、ここにいるその他大勢の女子と変わらないただの女子なんだから。